apoPTOSIS:mod.HB

最近は写真日記。

音漏れシャカシャカ

 僕は音楽を大音量で聴く癖がある。家でも、車でも、道端でも。自宅は一戸建てなので、それほど問題は無いだろう。車にしてもズンドコ揺れちゃう程では無く、エンジン音がしっかりと聞こえる音量であって、まず外に漏れることは無い。問題はウォークマンである。
 密閉型インナーイヤーヘッドフォンに辿り着くまでは、音漏れ満開であった。何度、電車の中で注意されたかわからない。密閉型ヘッドフォンを使えば良かったのだが、あまり外で使うのは好みじゃない。何よりも夏に密閉型ヘッドフォンは使いたくない。かといって普通のインナーイヤー型では耳が痛くなるので、耳かけや首かけのヘッドフォンを使っていた。
 ただ思い出してみると、中学まではウォークマンを聴いていてもそれほど大音量では無かった。電車に乗る時は音漏れしない様に注意していたし、歩いている時も、車の音がわかる様に音を落としていた。電車通学を始めた高校から段々と音が大きくなり始めた気がする。
 朝の通学時間は、通勤ラッシュ時間に重なっていた。しかも京浜東北線の上り電車である。品川や新橋に向かうサラリーマンと一緒に、もみくちゃにされながら、駅員に車両に押し込められるのである。いくら東京育ちであっても、当時はまだ10代半ば。二日酔いの中年男性や、煙草臭いOL、満員電車故の小競り合いに免疫があるわけでも無かった。
 前を向けば肩にフケが落ちまくっている中年男性。横を向けば酒臭い若いサラリーマン。後ろからは香水臭いOLが寄り掛かって、時々煙草の匂いも混じっている。目を瞑ろうと思うと「足踏んでんじゃねぇよ」「痛ぇな」といざこざが始まる。電車が揺れる度に、そこかしこで「ちっ」とか「痛」とか聞こえてくる。そしてその度に不快な匂いが入れ代わる。
 その中で時々ウォークマンの音漏れが聞こえて来た。同じ高校生で、他のことなどお構いなしに音楽を聴きながら目を瞑っていた。ぶつかられても押しつぶされても、音楽を聴くことに集中している様だった。
 それ以来僕のウォークマンの音量は大きくなる一方だった気がする。音漏れなど知ったことではない。アルコール臭い人間が乗れるのだ。酔っぱらってる人間もいる。煙草臭い人間もいれば、つまらない話しばかりする人間達もいる。電車の中で酒を飲む人間もいれば、くちゃくちゃと食事し出す人間もいる。子供連れの親は、車内ではしゃぐ子供を叱ろうともしない。視覚や嗅覚に訴えるものが良くて、何故聴覚に響くものが悪なんだ!こっちは同じ乗車賃払ってんだ!と、自分を正当化し、音漏れ満開だった。
 そんな感じで、善良な乗車客から注意されることは多々あり。その度に素直に「すみません」と謝っていた気がする。ただいつだったかの終電でグデングデンに酔っぱらった中年サラリーマンに、「うる、せぇ、…んだよ」と言われた時には(略)。
 いや、まぁ、今は密閉型インナーイヤーありますから、そういうことはまず無いと思うんですけれどね。