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最近は写真日記。

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society

「個別の11人事件」後、草薙素子が公安9課を去って2年。メンバーも増え、少数精鋭ではなくなった新生公安9課。素子の失踪や9課の変化と共に旧9課のメンバーもそれぞれ少しずつ変わっていっていた。そんな中、シアク共和国残党によるテロ計画が判明。義体化し隊長となったトグサ率いる9課は捜査を開始。ところが当のテロリスト達が次々と謎の自殺を遂げる。ある現場に向かった9課の目の前で一人のテロリストが「傀儡廻が来る!」と謎の言葉を残して自殺する。一方単独でテロ事件の捜査を行っていたバトーは素子と再会する。素子はバトーに「Solid State には近づくな・・・。」と謎の警告をする。捜査が進むにつれバトーは素子が「傀儡廻」ではと疑い出すが・・・。

 以上Wikiより。
 9課は組織化され、トグサは現場を仕切る隊長に、そして少佐は失踪中。雰囲気としては劇場版攻殻機動隊の9課と、イノセンスの視点をトグサに切り替えたら、という感じか。SACをパラレルワールドとしている割には、意図的に近似させている部分がある気がする。

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society
士郎正宗 神山健治 田中敦子

バンダイビジュアル 2006-11-24
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 以下、ネタばれ。
 テーマは時代性を捉えて、教育、ニート少子高齢化、テロと盛り込まれている。メインとしては少子高齢化がくるのだろう。テロの裏側で誘拐され続けていた子供たち。その子供を糸口にSolid Stateに辿り着くが、テロとは関係なく誘拐されていた子供たちの数は2万人にも及ぶ。貴腐老人と子供。この貴腐老人だが、後に宗井が

「それも仕方あるまい。考えてみろ、彼らはこの国のために何をした。家族も子供も作らず納税の義務を果たさず自分の好きなように生きて、歳を取ったから面倒を見てくれでは虫が良すぎる。私に言わせれば、歳を取った分働けなくなった分納税しろと言いたい」

 と語っているように、現在主に問われているニートの行く末を暗示している。ちなみに貴腐老人とは『“全自動老人介護システム”に繋がり、最低限の措置が施された状態の老人が、まるで貴腐ブドウのように干乾びていくことからそう呼ばれている』ということである。
 それに対しての荒巻の反論は小気味良い。

「詭弁ですな。ならあなた方政治家は今まで何をしてきたのか。自らの保身・虚栄心を優先する余り実問題を後回しにしてきた責任は誰が取るおつもりか」

 少佐や荒巻が前面に出て来ないところは、今までのSACとキャラの使い方が異なっている。メインはトグサではあるが、それほど固定されているわけでもない。表はトグサ、荒巻、裏はバトー、少佐という演出方法はそのままではある。

この国はいい加減、誰かが何とかしなければいけない状態に来ている。六百万を超える貴腐老人、失業率の増加と反比例するように減少を続ける労働人口、そして少子化。挙げ始めたらきりが無い。知っているか?これだけ少子化が叫ばれる中、年間五万人もの6歳未満の子供が無意味に命を落としている事を。その内の三割はドメスティックな暴力による虐待死、しかも内の八割は児童相談所や警察など関係機関が自体を把握していたにも関わらず、防ぐことが出来なかった物だ。この国のシステムは既に崩壊し、個のポテンシャルは著しく低下してしまっている

 出生率と出産率が同様に語られることがあるが、出生率には死産は含まれておらず、妊娠4ヶ月以上であれば死産とされる。最近の出産率と出生率を混同した少子化への報道は首をかしげることがあるのだが、この傀儡廻の言葉も本来の意味での少子化対策を示している。産めよ増やせよ、という数字の話しではなく、産まれてからのケアが何よりも重要だ。それがまま成らない内に出生率だけ上げても意味はないだろう。それこそ「個のポテンシャル」が低下する要因に他ならない。
 また教育問題だが、「奴は以前から、純血の日本人による支配階級を形成する事を公約に掲げていた、反動保守のナショナリストだ」と荒巻が宗井の説明をしていたが、彼自信の発言からもそのナショナリストぶりが伺える。

「公務員のくせに、この国がどれだけ危機的状況にあるのか理解していないようだな。今のままではそう遠くない未来に、我が国の繁栄は他民族に取って代わられる。それを防ぐために、この身寄りの無い子供たちに税金を掛け教育を施し国の将来を託す。その何処に問題があると言うのかね」

 昨今の愛国心問題に対しての批判が多分に含まれ、少佐はそれを洗脳工場と一蹴している。
そして傀儡廻にも

「せっかく新しい人生を歩ませようというのに、洗脳エリートにしたのでは意味がない。教育は必要だが、野に放たなければ強い意志は芽吹かない。」

 と言わせている。ただ傀儡廻しも独善的である分、少佐の批判を受けるが、教育問題に関しては最後まで答えが出ない。

トグサ「で、結局。子供たちの処遇はどうなったんです?」
荒巻「うむ。ひとまず本当の親の所に返すことになるようだ」
トグサ「記憶が書き換えられていても、虐待の事実が分かっても…。やっぱりその方がいいんですかね…」
荒巻「その答えを、現段階で出せない所が行政の限界なのかもしれんな…」
トグサ「洗脳教育を受ける前に里親が見つかって、ここを出て行けた子供たちはどうなるんです?」
荒巻「………。それも、個々の状況に伴ったいささか複雑な裁判の結論を長らく待つことになるだろう」
トグサ「課長。俺たちの出来る事って、何なんですかね…」
荒巻「……一つだけ言える事は、我々は自らを律するルールの中で不条理に立ち向かって行くしか無いということだ」
トグサ「………。願わくば成長した彼らが、将来個のポテンシャルを上げて我々の出せない答えを見つけ出してくれることを祈るばかりだ…」

 そして最後は少佐の自問自答で締められる。

草薙「私は何に達観していたのかしら。何を探してネットを彷徨って居たんだと思う…?真理、知己、それとも特定の誰か…。もしかしたら自分の非力さを、組織やシステムのせいにしていただけなのかしら」
バトー「なぁんだ。ずいぶんとしおらしいじゃねぇか。色々やって気がすんだか。で?これからどうする?また“個人的推論に則った事件への介入”ってヤツを一人で続けてくつもりか」
草薙「それも限界かもね…。規範の中に居るときは、それを窮屈と感じるけど。規範無き行為はまた行為として成立しない。結局堂々巡り」

 自分の正義感の亡霊を見た気がしたのだろう。並列化し劣化した自分が拡大させた事件。その背景には独善的な正義感があった。ここで少佐は組織故の可能性を示唆するのだが、出番が少ない荒巻が

「だが少佐が二度と戻らないという可能性も考えておかなければなるまい。奴の才能はエスパーよりも貴重な物だったし、あれの代わりを担える者など存在せん。ワシとて永遠にここに居続ける事は出来ない。なら、一つの事件を十の力で解決するよりも、三つの事件を八割で解決出来る組織を作る事の方が、我々の望む理念をこれから先も継続して行けるとは考えられんか?ワシはそう考えて組織の拡大を進めてきた」

 と9課拡大の理由を先に語っている。ここで傀儡廻の望んだ「Solid State 永久機関」に繋がる部分もあるのだが、個と組織の有り様を最後に持って来ているのは、次の(次があるかは不明)シリーズのための布石だろうか。
 冒頭にも書いたが、押井版攻殻機動隊を敢えて踏襲する形で、神山健治が挑んだ作品がSSSなのだろう。どちらかと言えば2nd GIGに対しての反省なのか、押井守がいなくても自分たちだけでできるという押井塾生のこだわりなのか。その真意はわからないが、全体的な感想としては劇場版パトレイバーと被って見えて仕方がなかった。もちろん時代的なテーマに差異はあるにしてもモチーフ、つまりは天才的プログラマーと彼の死後も半永久的に動き続けるシステム、が重なっており、その符号は敢えてなのかブラインドなのかは見えてこなかった。