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最近は写真日記。

時をかける少女

 高校の同級が作画監督を努めており、また周囲の反応が良かった時かけを、やっと観賞。率直な感想として、居心地の悪さを感じた。「甘酸っぱい」という表現が似合う様な恋愛が最後に待ち受けているが、何よりもそれを「甘酸っぱい」と感じさせるための風景描写、つまりは作為的なノスタルジー装置が鼻について素直に楽しめなかった。

ノスタルジアこそは「後期資本主義の文化イメージの中枢」であって、それは実際に生起した過去を語るというよりも、理想化された「過去的なるもの」を、ある特定の意味の含みのもとに語ることを主眼としている。その意味でノスタルジアは歴史の対立物であり、イデオロギー的に歪形を施された過去のステレオタイプから立ち上る感情であるといってよい。

ノスタルジアとは過去を美化しようとする情熱であり、そのかぎりにおいて歴史と敵対する関係にある。歴史家は過去から現在へと連なる因果関係を探求し、それを客観的に証明してくれる資料を重用視する。だがノスタルジアに耽るものは、堕落と幻滅に満ちた現在を忌避し、現在とのまったき断絶の上に立って、美しかりき過去の映像に酔い痴れる。夢見られた過去とは絶対の距離のもとに隔てられたものであって、それゆえに光輝くものと化すのだ

 四方田犬彦『「かわいい」論』ちくま新書より
 その居心地の悪さを論理的に表現した場合、前提として以上を引用できる。また抽象的に表現するのであれば、以下の文章を引用したい。

「いいなあこんな学生生活」
「これが本来あるべき学生生活だったんだ」
「すると俺の学生生活ってなんだったんだろう」
そして、見たものの中に、本来では「ありえなかった現実の世界」が正当化され、従来の「あたりまえだった現実の世界」が否定される。
本来持っていなかったものをまるで持っていたように錯覚させ、それを否定される。
こんな残酷な作品は無い。
「現実を錯覚させる」ことがそもそもの悪であり、「現実を否定させる」ことはもっと悪である。
これを作った人は、世の中の人たちにとって、悪である。
映画史上、こんな罪作りな作品は、他に無い。
「こういう例を出して適切かどうか分からないけど、『耳をすませば』に出てくるような健康的な一家を見て、果たしてアニメーションを必要としている今の若い子たちが勇気づけられることがあるんだろうか。
僕は、ないと思う。『耳をすませば』を見て生きる希望がわいてきたり勇気づけられる子は、もともとアニメーションなんか必要としないんだと。
アニメでも映画でも小説でも何でもいいけど、フィクションを人並み以上に求めている子たちには、ああいう形で理想や情熱を語られても、むしろプレッシャーにしか感じられないはずだ。僕はそういうものは作らない。
今回もそうだけど、僕が作っているものにあるのは、生きるということはどう考えたってつらいんだ。
多分、あなた方を取り巻く現実もこれからの人生も、きっとつらいものに違いない。いろんなものを失っていく過程なんだということ。
生きていれば何かを獲得すると若い人は漠然と思っているんだろうけど、実際は失っていく過程なんだよって。 」

 押井守合成発言(2chで取り上げられた発言)
 何故単純に楽しめなかったのか。それは多分、この作品の作画監督と高校時代同学年で、エヴァやらPCやら結城信輝の話で時々盛り上がっていた、という過去があるから。単純に言えば、同じ高校生活を送っていた。時々出てくる風景も、学校内の風景も、様々な資料を用いてはいるのだろうが、僕が通っていた高校のものに似通っている部分があった。彼が実際にそれを描いているのかはわからない。何よりも彼は作画監督であり、作品自体の監督ではない。しかしそのたった一つの事実が、この作品を見たときにのめり込めない障害となってしまった。ある意味、バイアスがかかってしまったのだ。
 結果的に彼の描く風景にノスタルジーを感じることはなかった。学生時代、彼と同じ風景を見ていたが故に、彼が作品のために意図的に書いた風景からは、もしくは彼が理想とする学生時代風景からは、僕は何も共感できるものを感じ得なかった。
 タイムリープを用いて、歴史の連関性を語りながら、その実、見る物に対してはあり得ることのない「過去的なるもの」を植え付ける。タイムリープの矛盾(記憶や身体等)など設定上の曖昧さに関していえば、あまり気にはならなかったが、ノスタルジーに彩られた作品観には辟易してしまった。
 気に入らない過去を変えて、未来に影響を与えるよりも、現実を生きる為に過去をレファレンスし、現実を継続させた結果の未来でありたいと思う。もちろん主語は僕である。
 フォローではないが、彼の仕事に対しては(作品とは別に)ただただ尊敬の念を抱くばかりである。12年前の言葉通り、しっかりと自分の未来を掴んだ。僕にはまだ到達できていないステージである。今後も彼の活躍に期待するばかりである。

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