apoPTOSIS:mod.HB

最近は写真日記。

ホストになってみよう:その21

 レセプション2日目。オープンは1日目同様の時間だったが、僕は家庭教師の後だったので、出勤時間が23時頃だった。タイムカードを押し、フロアに出ると先日同様2組程度しかお客がいなく、閑散としていた。
 「おはようございます」いつの間にかジョーが隣に立っていた。おはよう、と応えそれまでの状況を確認した。どうやらダンスパーティーがあったらしく、ジョーも見よう見真似で踊ったらしい。「ボックスステップですか?あんなの一生やんねぇって思ってましたよ」と華麗に彼はボックスを決めてくれた。苦笑しながら、僕も真似をしてステップを踏んでいると「あれは確かに辛かったよな」と短髪で金髪、日焼けした男子が会話に入って来た。
 「はじめまして、ええっとサクラです」「知っていますよ、タイチです」と握手を求められた。「昨日、いきなり指名されてましたよね?秘訣は何ですか?すげぇっすね」といきなりフレンドリーだ。あ、多分サクラさんとタイチさん、同い年ですよ、とジョーが会話を進めてくれ、おまけにタイチの友達のヒトシ(一緒にスカウトされたらしい)を紹介してくれた。短髪で金髪のタイチと違い、ヒトシはロンゲにツイストパーマ(茶髪)だった。
 1時間程客を待ちながらヒソヒソと立ち話を続けたが、あまりの暇さにそれも飽きてきた。僕はまた逃げる様に店の入口に近付き、ドアマンの役を買って出た。外は小雨が降っていて、自転車で帰る事を思うと少し憂鬱になった。少ししてヒトシがタバコを吸いに外に出て来た。
 「普段は何をしてるの?」僕は普段学生という事を先に告げると、「光ファイバーっていうか、そういう回線の工事してんだよね。地中に埋めたりするやつ。知ってる?」と地面を指差しながら答えてくれた。今みたいにまだ光回線が当たり前じゃなかった時代の話である。「ぶっちゃけ、あんまり興味ないんだよね、この仕事」とヒトシがタバコを揉み消した。「面白味がないっていうか、まぁタイチに誘われたから何となくやってみたけれど、今日か明日で終わりにしようって思ってんだよね。第一、客が来なくてホストも何もないでしょ?」見た目はもんたよしのりなのに、言うことは正鵠を射ている。「サクラ君は?どうすんの?っていうか、似たよう様なもん?」と微笑まれ、「まぁねぇ」と微笑み返しておいた。
 ヒトシが中に戻ってから数分もしない内に、黒のセルシオが店の前に横付けされた。出て来たのはセレブ女性、ではなく、うちの専務と同年齢位のホストと、良くテレビで目にする様な白いスーツを着た若いホストだった。その後も高級車が続き、続々と降りて来る。数名のホストと、数名の女性。何かを確認しあってからこちらに向かって歩き出した。
 「いらっしゃいませ」と声を出し、扉を開け一群を招き入れる。「お、ドアマン、格好良いじゃん」「あ、本当」「このレベルでドアマンか」等、言いたい放題。それぞれにいらっしゃいませと笑顔を振りまき、扉を閉めると、いつの間にか雨が上がっていた。ホッとしたのも束の間、力強く扉が内側から開けられた。振り返ると専務が僕を一瞥し「サクラくん、出番だよ。中に入って早く」と背中を押されてまたフロアに戻されたのだった。