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最近は写真日記。

まず何より越えなければならないのは資本主義的、もしくは社会主義的労働倫理

 解雇規制がなくなり、雇用流動性が増すとどうなるのか

「会社と社員がフィットしない」状況には、主に以下の2つがある。

1) 会社から見て、社員の生産性や能力が十分でなく、ペイしていない。
2) 社員から見て、給料や待遇、仕事内容、職場環境などに不満がある。

1)については、現状では会社が容易に解雇できないので、「ペイしていない社員」も会社が抱えている。これによって、会社の収益や他の社員の給料が下がっている。

2)については、現状でも会社を辞めること自体には特に障害がないが、転職先が見つからない場合がある。

これが、解雇規制をなくして雇用流動性が上がると、こうなる。

1)については、「ペイしていない社員」が解雇される。
2)については、待遇が上がり、転職先も見つかりやすくなる。

解雇規制がなくなったときに解雇されるのは、「ペイしていない社員」だけだ。つまり、会社がその社員に対して払っている給料や、かかっているコストに対して、それ以上の価値を生み出していないと判断された社員だ。

逆に「ペイしている社員」、コスト以上の働きをしてくれている社員は、解雇する理由がない。それどころか、雇用流動性が増せば、2)のように魅力的な転職の機会が増えるので、他社へ流出するリスクが高まる。「ペイしている社員」に辞められては困るので、むしろ給料や待遇を上げる必要がある。

そして、契約社員・派遣・アルバイトなど非正規雇用の社員は、全員「ペイしている社員」なのだ。これらの非正規雇用の場合、解雇規制がないので、会社から見て、ペイしていないのに雇いつづける理由がない。むしろ、多くの場合は「かなりペイしている」のであり、その「あがり」で、「ペイしていない社員」が養われているわけだ。

こうしてみると、解雇規制がなくなることによって、何が変わるのかがわかる。現状は、

「ペイしていない社員」のコストを、会社と「ペイしている社員」が負担している

 会社が社員をきちんと評価できていないからこそ、雇用流動性が必要なのだ

雇用においてこのような「市場」が成立するには、雇用流動性があるということが前提になる。雇用流動性が高ければ、年間500万円の能力を持っている人は、年間500万円出してくれる会社を見つけやすい。

しかし雇用流動性が低いと、労働がこのような「市場」にならない。年間500万円の能力を持っている人が、他の会社の仕事を探しても、なかなか見つからないのだ。

なぜならば、ほんとうはこの年間500万円の能力を持っている人を欲しい会社はたくさんあるのに、それらの会社には年間500万円とりながらぜんぜん働かない人、年間800万円とっている馬鹿な管理職、年間1000万円とっている無能な役員などがあふれかえっていて、さらにそういう人を解雇することもできないので、新規に採用ポストを作れないのだ。

けっきょく、雇用流動性があれば、会社側に見る目がなくてあなたを過小評価した場合、あなたの自己評価が妥当であれば、あなたはすぐに別の仕事を見つけられる。

 雇用流動性と解雇規制は無関係

一言で言えば机上の空論.

そもそも「成果主義」の失敗と就職氷河期の顛末を見れば,この理論が荒唐無稽なことくらいはすぐに理解できるだろうに.

経営者も管理職も合理的に動くのではない.利己的に動くのだ.

* 雇用流動性が低いことがIT業界にとって問題なのは事実.
* 雇用流動性が高くなるべきだというのには賛成.
* 年功序列と新卒偏重を止めるのは賛成.
* 現段階で解雇規制を撤廃するのは絶対に反対.まず間違いなく経営者の都合の良いように利用されるだけ.たとえば「10年間泥のように働く」ことを強要され,10年間酷使した直後に解雇してポイッと捨てるとか.
* 年功序列を廃止しない限り新卒偏重は無くならない.
* パフォーマンスに見合う対価を支払うことが可能ならば,年功序列はとっくの昔に廃止されていたはずだ.でも今もまだ廃止されてないよね.
* 雇用流動性が上がっているならば,有能な人ならば並の技術者の倍の給料を払ってでもスカウトするはずだよね.でもそんなことをしている会社がどこにある?
* まず廃止すべきは既に崩壊している年功序列賃金であって,雇用規制の撤廃はお門違いだ.

 解雇規制が撤廃された所で日本の労働市場に変化はないだろう。何より解雇規制で守られている(と思っている)被雇用者は企業内で占める割合は低いだろう。どちらかと言えば解雇規制が撤廃されるべき組織は公的組織である。民間では非正規雇用者の労働力が主力となっており、解雇規制は正規雇用者に比べれば比較にならない程緩いものになっている。一般的にパート・バイト・派遣を雇用する場合には雇用期限があり、尚かつ安価な人件費で代替可能な労働力を手に入れられるという面で、雇用側のメリットの方が際立つ条件でもある。昨今では正規雇用者と非正規雇用者(ロングパート)の待遇を近付けようとする動きがあるが、非正規雇用者が意図した待遇の「引き上げ」での解決ではなく、正規雇用者の「引き下げ」によって待遇の是正を計る企業が見受けられる。結果的に得をしたのは企業側で、業務を滞らせない必要最低限の労働力としての低賃金(待遇)正規雇用者と、業績の上下如何でいくらでも増減できる労働力が約束されたことになる。新たに短時間正社員制度が導入される見通しがあるが、パートからの契約変更が主なものになるのだろう。
 また非正規雇用においては雇用流動化特性故の格差も生まれているのが実情である。解雇規制が緩い為、企業の業績が悪化すれば一番に削られる予算が非正規雇用者でもある。その為雇用流動性正規雇用に比べて遥かに高いが、労働賃金が安く、おまけに昇給率や賞与額も、正規雇用者に比べれば圧倒的に低いものになっている。おまけに求職者数は増加傾向(特に定年退職者の増加)にあり、最低賃金ギリギリで求人を出す企業も少なくない。現状の先行き不透明なマーケットで解雇規制を撤廃したとしても、その構図に大きな変化はなさそうである。
 何よりも根本問題として「経営者も管理職も合理的に動くのではない.利己的に動く」ことは否めない。更に言えば利己的であるが故に非合理的な部分の存在を認めている。生産力や能力のみの基準でペイしているかしていないかの判断だけではなく、生産力や能力という場面以外での存在理由があるが為に解雇を免れているケースが多く、長い企業運営の中でどの段階で「ペイしていないのか」が重要な判断基準でもある。また長期勤続によるキャリア形成を計る観点から若年層(新卒を含む)のみに絞った求人を出すことができるが、結果的にペイしない労働者を育成した場合に、解雇規制の有効性がある。アリやハチの労働に例えられることがあるが、ペイしている社員の占める割合が高い企業はそう多く無いだろう。要するに「ペイしていない社員」ということが一つの役割であり、その役割がある程度循環する様に組織化されているところもあるだろう。
 最終的に解雇規制を撤廃することには賛成だし、雇用流動性が高くなり優秀な人材ばかりが集まるような企業が創出されることにも魅力を感じる。反面セーフティネットを充実しなければ格差は拡大する。資本主義的、経済右翼的に考えれば格差が生まれる事が必然であるし、社会主義的、経済左翼的に格差是正の為のセーフティネットを用意するのが妥当でもある。下手に雇用流動性を煽れば格差が広がり、格差を是正しようとすれば雇用流動性が低くなる。その責任の所在を自己に求めるのか、国に求めるのか、企業に求めるのかで、また問題は転がりそうである。ちなみに僕は格差ありきの自由経済だと考えているので、いつでも就業先を選べる人材でありたいと思っている。そして優先して廃止するべきは年功序列倫理であり、「年功序列を廃止しない限り新卒偏重は無くならない.」に賛成である。