ホストになってみよう：その１２

　レセプション1日目。最寄りの駅でジョーと待ち合わせてお店に向かう。お店に着くと、オープンの為、他店から贈られた花が店頭に飾られていた。入店する時は「おはようございます」と挨拶をするのだが、やはり慣れず、人に会うとついつい「こんばんは」と言ってしまう。僕らがお店に入ったのは18時少し前だったが、前日来ていたホスト達も、18時に成る頃には各自集まっていた。
　しかし一応お店はオープンしているものの、お客さんは誰一人居ない。いつもの様にそれぞれに手持ち無沙汰にしていると、フロアチーフから「突っ立って無いで、掃除でもしよう」と掛け声が。「掃除しろって言ったって、店オープンしてるし、しかもまだここ新しいし」と思ったが、ジョーから雑巾を手渡され、とりあえずソファーを拭き出す。「ジョー、お客さんて本当に来るのか？」と小声でジョーに質問すると、「どうっすかねぇ、でもホストクラブが18時から開いてるなんて知らなかったです」と、尤もらしい答えが返ってきた。
　人手は十分にあるので一通り掃除するのにそれほど時間はかからなかった。しかも相変わらずお客さんが来る気配は無い。結局先日行ったシミュレーションをもう一度やることになった。今回の目的は何よりもメニューと挨拶を憶えることだった。「で、ain_edくん、源氏名何だっけ？」とカガミさんから質問されるが、そんなものは決まっていない。「え？自分で決めるんですか？だってジョーはカガミさんが決めたんですよね？」と聞き返すと、「ああ、ジョーはだって、ジョーって感じでしょう。良いんだよ、好きに自分で決めて。俺はこれ本名だし。専務から何か言われてる？」と聞かれるが心当たりが無い。「好きな芸能人とか作家とかいない？」と言うが、その場で思いつく名前は何も無かった。「好きなものは？花とか？」「ああ、桜ですかね。桜が好きです」と答えると、「じゃあ、サクラくんだな」と源氏名決定。「桜と言ったらやっぱり吉野だし。吉野サクラくんで良いね」と名字も決定。「あ、はぁ」とそのままシミュレーションも終了。
　20時前に成ってようやくお客さんが来店。以前、横浜のお店で見たようにホストはフロアに向かって一列に並んでいる。お客さんはどうやら横浜店の常連らしく、専務が一緒に席に着いて話しをしている。それ以降、チラホラとお客さんは入って来るものの、ホストの数が多過ぎて相変わらず暇だった。「そういえば」と思い出して、お店の入り口に向かう。ドアマンをしていたホストが「中、どうですか？」とこちらも暇そうにしているので、「あ、代わりますから、中入って下さい」とドアマンを交代。フロアでただ突っ立っているより、ドアに寄り掛かって外の風景を見ている方が楽だった。