apoPTOSIS:mod.HB

最近は写真日記。

ホストになってみよう:その13

 ドアに寄り掛かって外を眺めていたものの、カレンダーは12月に成っていたので、30分も立っていると体が冷えてくる。あまりに暇なので、店前の駐車場を散歩したり、フロアを除いたり、トイレに行ったりして、時間を潰した。
 午前0時くらいになってようやく人が入り出した。「いらっしゃいませぇ」とお客さんが入る度にドアを開ける。5、6組お客さんが入ったところで、中から電話中の専務が出て来るのが見えた。振り返った僕と丁度目が合って、そのまま外に出てきた。煙草をとり出したので、僕はライターを出して彼の煙草に火をつける。僕の隣で煙草を一本吸い終えるころに、電話を切った。
 「さくらくん、こんなところで何してるの?」と専務が入り口のドアを開け、肩を組んで僕を中に入れようとする。「え?いや、ドアマンですけれど…」と彼を見ると、微笑みながら「そんなことは誰でもできるんだから、君がこんなところに居ちゃぁ、駄目だよ。君の仕事は中」とフロアに戻される。
 フロアの席は半分程埋まってはいるが、それでもホストは十分に余っている。ジョーがボーッと突っ立っていたので、「どうよ?」と近寄ると、「相変わらず暇ですね」と既に暇疲れしている。気づかれない程度に小声で会話し、オーダーを取りにいったり、ドリンクを運んだりしていた。
 そうこうしている間に「さくらくーん」と専務から呼ばれ、専務が居る席に呼ばれる。「これね、さくらくん、格好良いでしょう?No.1候補だから」と紹介してもらうが、(1ヶ月で辞めますけどね!)とはやはり言えなかった。「いらっしゃいませ、さくらです」と挨拶をして、オーダーを取る。バックに戻ろうとすると、「いや、だから、何処行くの?」と専務に腕を取られ、「あ、オーダーを…」と言うと、専務が他のホストを呼び、そのオーダーを渡してしまった。
 (席に着きたくなかったなぁ)と思いながらも、専務とお客さんのやりとりを観察する。ホストトークなどできるはずもないので、僕が気をつけることは2つ。煙草の火とドリンクである。とりあえずトークは専務に任せ、練習以上に、自然にホストを演じなければならない。僕は煙草を吸わないため、ライターの扱いに慣れていないので少し緊張した。
 「ですね」とかどうでも良い相づちを打ちながら、目はテーブル上にあるお客さんの煙草に釘付けである。それを察したのか専務が多分意地悪で、煙草をとり出した。もちろんそんなフェイントには引っかからず、しっかりと対応する。バスケで鍛えられた視野が役に立った。そして専務が煙草に火をつけたと同時に、お客さんも煙草に手を伸ばした。そのまま自然な流れで、お客さんの煙草にも火をつけられた。それからはドリンクを作ったり、専務のトークに相づちを打ちながら、何となくだがホストに一歩近づいた気がした。