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最近は写真日記。

ホストになってみよう:その14

 そうして何度か席に呼ばれ自己紹介している間に、ドリンクと煙草に関しては自然と体が動く様に成った。ただ気掛かりだったのは、相変わらずお客さんの入りが少ないこと。テーブルが全て埋まるわけでも無く、お客さんも長居するわけでもなく、ちょっと専務と話して帰るという状態で、ほとんどのホストはただボーッとフロアに立って「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」を繰り返していた。
 午前2時近くなって、ほとんどのお客さんが帰ってしまった。僕はまたフロアに戻り「暇じゃない?」とジョーに話しかけた。「ですね。っていうか、まだ2時なんですけれど」と確かに店が閉まるのは朝の6時頃だと、前もって言われていた。それに僕が見学した横浜店では、2時以降から人が入り出した記憶がある。オープン初日からこんなに人が来ないで、どうやってこれから先経営していくのか、他人事ながら少し不安に成った。
 カガミさんや主任は、本店で指名してもらってたお客さんを呼んでは、その相手をしていた。そこに新人ホスト達が挨拶しにまわって、経験値を上げる。面白いのは、前の店で指名を貰っていたからと言っても、今回の店ではお客さんは全て新規扱いとなる。つまりお客さんを呼んだ人、キャッチした人に関わらず、テーブルで指名を貰ったもの勝ちなのだ。
 フロアを見渡すとお客さんは1組だけ。そこへ新しいお客さんが2人入ってきた。小柄で、表情が豊かで可愛らしい女性と、もう1人は細くモデル体型で、お姉さんタイプの女性だった。どうやらフロアチーフや主任の知り合いらしく、彼らは挨拶してテーブルに着いた。着いた席が丁度僕が立っていた位置から近かったので、僕がオーダーを取りに行く。
 「いらっしゃいませ」と簡単に挨拶し、メニューを指し出す。小柄の女性の方は「はーい」と微笑み、思った通り愛想が良い。お姉さんタイプの女性も、ニッコリと笑ってくれた。小柄な女性の方が「お、格好良いね、キミ」と色々とイジってくれたが、僕はオーダーを取るためにフロアに膝を着いているので、少し辛かった。するとお姉さん系の女性が、「ねぇ、ここって男の子、もう手出して良いの?」とフロアチーフに尋ねた。(そんなこと、良いからオーダーお願いします)とも言えない。既にこの時点で、辛い体勢と営業スマイルがヒクついていた。「え?良いんだよ。って言っても、皆素人で、僕や主任、カガミとかしかいないんだけれど」とフロアを振り返って新人ホスト達を見渡したが、その女性はただ「ふーん」と言って、僕の顔を見ている。そして僕を指差して、「じゃあ、この子がいい」とにっこりと微笑んだ。