apoPTOSIS:mod.HB

最近は写真日記。

ホストになってみよう:その16

 (えっとバツイチ?いやバツニとか?)と切り込めずに、ただ僕は「そうなんですか?」と笑って返すしかなかった。それを見透かしたかの様に、エリさんは自分から、「私ね、バツイチなのよ」と煙草の灰を灰皿に落とす。マミさんはもちろん知っていたらしく、「へぇー、こういうタイプだったんだぁ」マジマジと僕を見ると、「うん、そうだね。濃い顔が好きなんだよね」とエリさんも僕の顔を見ている。僕は急に恥ずかしくなり2人の視線から目をそらして、テーブルにあったおしぼりを三角形に畳んだ。
 「サクラくんは何してる人?」とやっと、エリさんから質問が来た。会話をしていて「質問が無い」という状況ほど辛いものは無い。「あ、僕学生なんですよ」と答えると、「え?いくつなの?」「21です。2月に22に成りますけれど」と減ったドリンクにJINROを足していると、「わっか〜!!」という反応が2人から返ってきた。内心(この人たちはいったい、いくつ何だ…)と思ったが、口に出す訳にもいかず、ただニコニコしていた。すると意外な人から質問が来た。「え、何、サクラくん、何年生まれ?」主任が身を乗り出している。(ああ、そういえば年齢とか言ってなかった)と思い、「78年生まれです。学年では77、78年に成りますね」主任を見ると、「へぇ〜、タメだ」とまたソファーにもたれかかった。
 (は?タメ?…。)思わず言葉に詰まり、お客さん2人の存在を忘れ、マジマジと主任を見てしまった。「なにぃ、君たちタメ同士なの?」女性2人も気になったらしく、2人の目線が主任と僕の間を行ったり来たりしている。確かに主任はまだ30には達していないと思っていたが、どう考えても僕と同い年には見えない。彼は特に格好良いわけでもないし、肥満体型だった。何よりも20前後の若さをまるで感じられなかった。それがまた年齢を感じさせなかったのだろうか。ただ毎日煙草吸って、毎日酒ばかり飲んでるとこういう印象に成るのかもしれないと、一瞬恐怖がよぎった。
 意識を戻すと、既に違う話題になっていて、場の空気を壊さない様に心がけながら、話しに入っていった。マミさんの人懐っこい性格と、主任のまったりとした雰囲気が妙に合っていて、2人は楽しそうに話している。エリさんはやはりお姉さんタイプで、相手の話しをしっかりと聞いて、時々意見したりという感じだった。ただエリさんが時々時間を気にしたり、携帯をいじったりする仕草を見ていると、場の雰囲気に溶け込めていないのか、つまらないのか、どうも上の空という感じがして成らなかった。かといって僕には気の利いた台詞も話題もなかったので、ただ「疲れてないですか?大丈夫ですか?」としか言えなかった。
 エリさんは「うん、大丈夫だよ。ちょっと疲れてるけれど」と気を遣っている様子だった。これ以上僕にはテーブルトークは無理だと踏んで、「エリさん、隣に座ってもいいですか?」思い切って言って見た。すると「え?駄目なわけないじゃん。おいでよ」とエリさんの隣に空いているスペースを、パンパンと掌で軽く叩いた。隣に座ったからと言って、僕に何かしらの作戦があったわけでは無かった。ただなるべくコミュニケーションの距離を身体的にでも近づけておきたいと思っただけだった。そして「それじゃ、失礼します」と僕は立ち上がって、エリさんの隣に腰掛けた。