apoPTOSIS:mod.HB

最近は写真日記。

ホストになってみよう:その17

 隣に座って気がついたのだが、お客さんが居ない所為か、店内が寂しく感じられた。というのもお客さんは壁際に備え付けられたソファーに座り、フロアに対面している。僕たちホストはテーブルを挟んだお客さんとは反対側の、小さな椅子に座り、お客さんとその後ろの壁を見ながらサービスを行うのだ。今まで営業中にソファーに腰掛けたことがなかったのでわからなかったが、お客さんが僕らの背中に見ていたものがわかった。
 通常僕らの視界にはお客さんと壁しか入ってこない。しかしお客さんの視界には、他のお客、それに対応するホスト、フロア、他のホストなど、色々なものが見えているのだ。僕たちホストの話しが面白くないと、お客さんの目線は他に移る様にできている。キャバクラであればコンパニオンはお客さんと対面して座ることがないだろう。通常はフロアを向いたソファーに、お客さんと並んで座る。つまり最初からお客さんが見ているものがわかる様になっている。ホストの場合、お客さんの隣に座れる様に成るまで、その視界がわからないのだ。
 すると「どうしたの?落ち着かない?」とエリさんに顔を覗き込まれた。サービス中にそんなことを考えているなんて気づかれたくなかったので、「なんか緊張しますね」と誤魔化した。「あはは、可愛いねぇ。ありがとう、緊張してくれて」と笑ってくれたが、その後の話しのネタがどうしても見つからなかった。
 ただ黙っていてはどうしようもないので、ドリンクをつけ足しながら「お酒は好きですか?」とか「休日は何してます?」とか一般的な質問をぶつけた。それでも会話はプツリプツリと途切れ、いまいち盛り上がりに欠けた。居酒屋何かで見かける、ナンパした女子を口説こうとしながらも、空回りし続ける男子の様な。そういった気まずさが僕の中に充満していた。
 あまりの気まずさに「エリさん。手、出して下さい」と彼女の手を握った。「ん?どうしたの?手相とか?」と僕に手を握られているのを何とも思っていないかの様に、そのまま掌を開いて手相を見せてくれた。「ああ、違うんです。残念ながら僕がわかる手相なんて、生命線とか知能線とかくらいなんです。なんで、手のマッサージしますよ」とバスケ部でいつもやっていた掌のマッサージをその場で始めた。始めたは良いが(掌をマッサージするホストって、どうなんだ?)と、自分のしていることが「ホストの仕事」として正しいのかどうか、気まずさの変わりに、頭の中が疑問でいっぱいに成った。