apoPTOSIS:mod.HB

最近は写真日記。

ホストになってみよう:その19

 専務に呼ばれフロアに出てみると、既に違うお客さんが。専務の昔からのお客さんらしく、紹介してもらい、席に着く。体格の良い中年女性で、身に付けているものも豪華だった。「彼はねぇ、考古学を勉強してるんだって」と専務から話題をふられ、「そうなんですよ。発掘とかするんです」とは勢いで言ってみたものの、いくら何でもホストクラブで遺跡がどうのとか、遺物がどうのとかはあり得ないなと思い、話題を逸らした。
 午前3時を過ぎてお客さんの入りはほとんど無かったが、とりあえず専務や主任の昔なじみの相手をして、経験値を上げていく。かといって専務に言われるままに僕ばかり席に着いているわけにはいかないので、隙を見ては他のホストと変わり、フロアに立ったり、ドアマンになったりしていた。
 そういえば、と思い出してキッチンに行くと、既に暗く、料理人の彼女の姿は無かった。しかし明かりをつけると、調理台の横のテーブルの上にピラフが作ってあって、しっかりとラップされていた。「ああ、このことだったんだ」とさっきの言葉を思い出して、他のホストに隠れ、電気を消して、暗いキッチンでガツガツとピラフを食べた。
 時計を見ると既に4時を回っていた。フロアに残っているお客さんは1組。他のホストたちにも疲れが見え、そこかしこで小声で雑談している。彼らを指導するべきフロアチーフにしても、主任にしても、昔なじみの相手を一晩中した結果、既に顔を赤らめて仕事どころでは無くなっている。若い方の専務にしても、3時過ぎに専務室に閉じこもったきり出て来なかった。
 上の人間達は、その日のオープンのために数日前からほとんど寝ていなかったらしい。結果としてそのほとんどの人間が飲みつぶれて、僕ら素人ホストたちが覚えたての仕事で何とか対応をしていた。そのほとんどの指導はカガミさんがしていて、彼は飲んでも飲んでもまるで潰れることが無かった。また新人ホストに変わり、誰よりも声を出し、話題を提供しては、場を盛り上げていた。その所為で彼の声は枯れて、声が裏返ってばかりいたが、それをもネタにして場を盛り上げた。
 午前5時過ぎには全てのお客さんが帰り、新人ホストたちだけで掃除が始まる。10分ほど手分けして掃除をし、その後フロアに集められ、その日の反省会が始まった。見ると部屋に閉じこもっていた若い専務もしっかりと顔を出していた。