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最近は写真日記。

僕と不動前と高校で

 高校1年生、同じクラスに「将来は社会科の教師になりたい」という男子Sがいた。気が付けば彼は同じバスケ部で、僕なんかとは比べものにならないくらいに上手くて、1年目からスタメンだった。彼も僕と同様、高校にいる間に英語圏に留学して、語学を学びながら海外経験を増やすつもりでいた。高校2年になって、僕らは修学旅行でカナダに行った。僕は初めての海外だったが、彼は以前に何度も海外旅行を経験していた。夏休みの間に、それぞれの留学先と連絡と取ったが、彼が望む留学先は当時事件があったおかげで、留学生の受け入れを見合わせていた。それでもお互い留学するつもりで、それぞれ部活には退部届を出した。結局、僕はオーストラリアに、そして彼はそのまま日本に残った。
 高校2年になった時、体育館で良く見かけていた女子Mと同じクラスになった。彼女はバレー部で、練習中に僕は可愛いなと思って気にしていた相手だった。「あの子、可愛いよね」とSに、練習中に言ったことがあったが、彼は、「う〜ん、僕の好みは、あの子なんだよね」と違う子を見ていた。
 僕が気にしていたMとは、同じクラスになったおかげで、仲良くなり、「実家が洋食屋さんなんだ。今度食べに来てね」という言葉を真に受け、何度もお邪魔することになった。そんな感じで、話しをしている間に、別に恋心じゃなかった事に気が付いて、僕は他に彼女を作ったわけだが、その後はその彼女と一緒に、その洋食屋に行く様になった。
 オーストラリア留学から帰国し、Sに連絡を取ったとき、「そうそう、今はMが彼女なんだ」と聞かされた。しばらくして洋食屋に挨拶に行ったときに、馴れ初めの話しを聞いたが、きっかけはどうやら僕だったらしい。お似合いな2人に仕上がっていて、何とも羨ましい限りだった。その後彼らは別れたり、復縁したりを繰り返したが、Sの母の葬儀の時に、「近々僕らは入籍するから」という話しを聞いた。それは僕が大学3年の時だったかと思う。それからは僕も、彼らもそれぞれに忙しくて疎遠になっていたが、イタリアに留学し始めてから、何度か連絡を取るようになり、また一緒にバスケをプレイする様になった。
 今では彼らは2子のお父さん、お母さんである。3歳になる男子と、1歳になる女子。今はもう「将来は社会科の教師になりたい」と言っていた若者はいない。学問に憧れを抱いていた彼は、大学に入り、その興味をそがれてしまった、と学業をそこそこに仕事に就いた。そして今では会社勤めを止め、奥さんの実家の洋食屋を継ぐ気で、料理を一から学んでいる。以前メールで自分の思いを告げた時には、「多分、もう僕らの見ているものは違うんだろうな」と、お互いに距離を感じていたが、幸せそうな彼を見るたびに、そういう生き方があるのだろうなと教えられる。
 「ここのお店は変わらないでしょう?」とふとした瞬間に、Sが言った。「変わらないものがここにあるから。ain_edは、自分の成りたかったものに、この10年をかけて近づいていっているけれど、それでも変わらないものが欲しくなったら、このお店に来るといいよ。君の好きなカルボナーラの味は、僕がしっかり受け継いで、いつでも出せるようにしておくから」と、嬉しそうに自分の娘を抱き上げては笑った。