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最近は写真日記。

パートナーですから、と彼女は言った

 チャーくんとその彼女のERIちゃんと再会した。過去の出来事は以下に。
京都・大阪・神戸、三都物語:1st Day@Osaka
京都・大阪・神戸、三都物語:2nd Day@Kobe
京都・大阪・神戸、三都物語:3rd Day@Kyoto

股間は風呂敷で、僕はとろサーモン
 あっという間の3年だった。当時、チャーくんがにゃんにゃんしていた女の子がERIちゃんである。チャーくんがイタリアから帰国した後、ERIちゃんは大学の留学制度を用いイタリアに1年留学をし、ERIちゃんが帰って来てからも、仕事上の関係で2人は遠距離恋愛を続けていた。そんな2人も去年から同棲生活を始め、しっかりと愛を育んでいる様子だった。
 彼らが今回関東に赴いた理由は至極簡単だった。「中田のサッカーを見に」関西から来たそうで、相変わらずサッカー熱心のチャーくんである。そんな彼も年を取ったせいか、「今は就職活動中です」とサッカーに関係する仕事から距離を置き、収入を考えて仕事を選ぼうとしているという。
 待ち合わせ場所はかなり辺ぴな所で、僕らも地下鉄の乗換えで2、3回降りた程度の駅だった。特別何があるわけでもないので、駅ビルで待合せる。先に着いた僕らは遅い昼食を取りながら彼らを待つ。天気予報では午後から雨ということだったが、何とか持ちそうな空模様である。「何だか中途半端な人が多いね」奥さんが人間観察をしていたが、場所柄なのか集まっている年齢層なのか、全体的にパッとしない印象である。
 「お待たせしませして」声に顔を向けると、テーブルの前にいつの間にか2人が立っていた。周囲の人間ばかりに気を取られ過ぎて、僕らは2人の存在にまるで気が付かなかった。2人は仲良く手を繋ぎ、「お久しぶりです」と頭を下げた。「久しぶり。子供達に会うのは初めてだよね?」僕らは一通りの挨拶をして、ジュニアたちの紹介をする。「写真で見ているから初めてって気がしませんね」とERIちゃんが既にジュニアと戯れていた。
 土地勘も無いので、とりあえず駅ビル内のバッティングセンターに向かう。「やったことないんですよ」というチャーくんと、「もちろんないです」というERIちゃん。僕ら夫婦も何年かぶりなので、ボールのスピードは100kmに設定でチャレンジ。一番打っていたのは奥さん。チャーくんとERIちゃんも、流石に目が良いのか、初めてながらもしっかりと打返していた。
 その後近場の公園に向かう。嬉しくなったのは「私がちびジュニアちゃんのベビーカーを押して、ジュニアちゃんをチャーくんがダッコすれば、奥さんとain_edさんが手を繋いで歩けませんか?」という提案をERIちゃんがしてくれた事だった。ただ人見知りをしないジュニアたちも、流石に大人しくだっこしてくれるはずもないと思ったので、残念ではあったけれどその案を実行にはうつさなかった。
 コンビニで飲み物を購入し、そして雑談が始まった。一番驚いたのはペルージャにいたモンスター中年女性がイタリア人と結婚するという話で、ペルージャの日本人コミュニティの混乱ぶりが伺えた。今後戻っても関わりたく無いコミュニティであり、人間は成長を望めば成長するが、成長の意志がなければ停滞し続ける、という事実でもある。初っ端にそんな話を聞いてしまったので、話題を引きずったが、チャーくんとERIちゃんの関係にもしっかりと突っ込んでおいた。
 「2人は結婚するの?」と単刀直入に聞いた。「チャーくんの仕事が決まったら、いい加減してもらおうかと」ERIちゃんが意地悪そうな目でチャーくんを見ながら微笑んだ。「逆プロポーズじゃ〜ん」と奥さんが突っ込み、「でもしっかり結婚するんだね」と僕が質問した。「ええ、だってパートナーですから」ERIちゃんは笑ってそれに応えた。当のチャーくんはただ頷いて、照れくさそうだった。照れ隠しなのか、その後チャーくんはずっとジュニアと追いかけっこをしてくれた。
 あっという間に時が過ぎ、彼らの関西へ帰る便の時間が迫って来ていた。「これ、地元で有名なんで」プレゼントしてくれたのは有名なフルーツティーらしく、「砂糖をたっぷり入れて飲んで下さい。無糖派なのは知ってますけれど、絶対に入れて下さい」とお薦めしてくれた。思い出してみれば、ペルージャに居る時、僕はいつも紅茶で人をもてなして?いた。しかもただお湯を沸かして、小さめの鍋にティーバッグを放り込んで2〜3人分の紅茶を無造作に作っていた。お酒を飲まなかった僕らは、その紅茶を注ぎ足しては夜通し話をしていた。チャーくんが帰国する時、新品の小さい鍋をプレゼントしてくれた。それまで使っていた鍋は、鍋底から水漏れする程に使い古して磨り減っていた為だった。
 「あと、これ子供たちに」差し出されたのはメッセージカードで、2人からジュニアとちびジュニアにそれぞれメッセージが添えられていた。流石に芸が細かい。お返しに僕らはイタリアでしかお目にかかれないフラゴリーノという苺(味)のお酒をプレゼントした。フラゴリーノは好き嫌いがあるのだが、「飲みたかったですぅ」とERIちゃんが素直に喜んでくれていた。ちなみにそのアイデア(プレゼントにフラゴリーノ)は、奥さんが思い付いたものである。
 別れを惜しみながらも僕らは駅に向かった。別れには適さない様な見窄らしい駅だったが、「次は良い報告を待っているよ」と僕らは別れた。今までも会う機会が無かったわけではなかった。ただお互いタイミング悪かったり、スケジュール調整が難しかったりで先延ばしになっていたのだ。それでも今回会えて良かったと思えた。彼らはこの3年間で、遠距離を物ともせず、しっかり愛を育んでいた。
 ERIちゃんはあっという間に大人の女性に変身しており(今でもまだ20代前半だけれども)、全体を見渡せる視野を身につけていた。何よりチャーくんが「一般職を探します」という変化が一番の驚きでもあった。かといって「夢は?サッカーは良いのか?」なんて不粋な質問はしなかった。彼がしっかり仕事は仕事と割り切って、自分の望む途を辿るための選択である、と僕は勝手に納得したからだ。きっとその望む途の中に、ERIちゃんが含まれているのだろう。自分だけの途を望まなくなった、という成長が、しっかり現実面に反映している結果なのだろう。自分の途を辿るために、最愛の人とその途を辿るために、その選択をしたのであれば、間違いなくその道は望む先に続いていくだろう。進まなければ途は現れず、振り返ることでしか途を確認することができないのであれば、ただ前向きに進んでいくことが最良の人生だろう。そしてその人生を最高にしてくれる人に出会えたのであれば、寄り途だと感じたとしても、人生に融通を利かせられる遊びがあっても悪いものではないだろう。人生は自分のもので、他人の評価に値しないのだから。
 この記事を書いている途中、チャーくんからメールが届いた。「内定が決まりました。ITの営業です」という嬉しい報せだった。また新しい夫婦が誕生しそうである。つくづくイタリアで出会ったカップルや夫婦には恵まれて、家族ぐるみの付合いが増えていく。それらの出合いのほとんどが僕が独りでいては認識することができなかった出会いだった、ということも追記しておく。
 おめでとうチャーくん。そして、そろそろ、いい加減結婚できそうだね、ERIちゃん。良きパートナーに出会えることが、一番の人生のスパイスだと思います。