apoPTOSIS:mod.HB

最近は写真日記。

いい気分でウナギ

 仕事帰りにウナギを買って帰ろうと思って、コンビニに寄った。7時から11時まで、いい気分のそのコンビニでは、数量限定、予約可能のウナギを販売している。どうやら主婦の間ではそれなりに美味しいと有名らしく、うな重にしては値段もお手頃だとか。僕も去年食べた事があったが、そこら辺で食べるうな重よりは確かに食べ応えがあった。
 自動ドアを抜けると、すぐに「うなぎ蒲焼重」の文字が飛び込んできた。一直線に売り場に向かうと、数量限定のくせにまだ売れ残っている。うな重は松・竹・梅の3段階に分かれており、梅が980円、竹が1,530円、松が1,850円と値札が出ている。残念ながら松のうな重は売り切れていたが、竹のうな重だけはかろうじて一つ残っていた。夫婦で喧嘩にならないよう、メニューはできるだけ揃えたかったが、やむを得ず竹と梅を一つずつレジカウンターに持って行った。
 僕の前にならんだ、ランニング(ノースリーブじゃない)を着た、おっさんがコンビニ店員と話し込んでいる。おまけに突然ランニングをたくし上げ店員ににおいをかがせ始めた。「どう?臭うでしょ?」「…え…ええ、じゃっかん」店員も困惑の表情を浮かべている。後ろにいる僕も目を逸らす以外に方法がなかった。知り合いなのか、ただの酔っぱらいなのか、汗臭いのか、酒臭いのか、暖かくなるとおかしな人が増えるのは事実だと思った。
 そしてやっと僕の番である。若干箱が大きい竹の上に梅のうな重を乗せ、「お願いします」と店員に差し出す。店員は慣れた手つきでバーコードを“一度”読み取り、値段を僕に告げた。瞬時に、間違えを告げるべきか、それともスルーするべきかの判断に迷ったが、判断に迷った時点で、スルーしようと思った。僕に善意があったならば迷うことなく注意できたはずだ。が、迷った、ということは「しめしめ」という思いがあったからだ。僕は素直な人間である。それも、自分に素直な人間だ。間違えたのは僕じゃない。店員もバーコードの数字を信じている。悪いのはきっとランニング男の臭いのせいだ。
 1,960円、告げられた金額を出し、レシートをもらう。レシートはそそくさと仕舞い、「どうも」と一言礼を告げ立ち去ろうとする。「あ、お待ち下さい」何かに気がついたかの様な声で店員が立ち去ろうとする僕を止める。「ちっ、気がつきやがった」という表情を見せることもなく、「はい?」と振り返る。すると店員は申し訳なさそうな顔で、「こちら700円以上お買い上げのお客様にキャンペーンのくじを引いて頂いております。本日お客様は2回引けますので、どうぞ」と、くじ引きの赤い箱を差し出した。「気がつくところはそこじゃねぇだろ!」と僕が店長だったら怒鳴っていたに違いないが、僕は店長じゃないので「あ、2回ですね?」としっかり確認してくじを引いた。「バーコードの読み取りも商品毎にちゃんと2回やった方が良いですよ」とアドバイスしようか迷ったが、僕は、他人の仕事に口を出すことほど無粋なことは無いと知っている大人なので、ちゃんと黙っておいた。いつの間にか人は大人になるものなのだ。
 スクラッチくじかと思い、勢い余ってひっかいてみたが何もはがれない。「あ、お客様、そちらはインターネットでお申し込み頂く様になっております。申し訳ございません」とぐちゃぐちゃに成り下がったスクラッチくじに目線を向ける店員。そんなに悲しそうな顔をされるとは思わなかったが、レジチェック後にもっと悲しい事態が彼に訪れることを考えると、僕も悲しくなった。
 軽く礼を言い、逸る気持ちを抑えて家路に着いた。家に着くと早速、奥さんにうな重を渡し、「レシート、レシート見て」と確認してもらう。「何?え?ああ、間違えたの?ふーん。ラッキーだったね」と、いさめられ、なおかつ「コンビニでも間違えることあるんだね、ついてるのかも」と言うと、「こんなところで運を使ったから、サマージャンボは当たらないね」とサクッと足下をすくわれた。サマージャンボの購入金額はいつも通り6,000円。平均して3,900円くらい返ってくる。今回うな重で得したのは500円程度。サマージャンボでついてた方が得すると思った。
 今回のポイント
 ・ツキは“選択可能であれば”ここぞという時までとっておく
 ・500円ごときで「得した!」とはしゃいでる自分はやっぱり非モテキャラ
 ・うな重の山椒はいい感じに散らさないと舌がしびれる