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最近は写真日記。

派遣とワーキングプア

 最近のメディアでは派遣=ワーキングプアという図式が成立している様だ。実際その内容を見てみると、派遣は派遣でも日雇い派遣を例にしているのだが、その例だけを取り上げて「派遣社員は全てワーキングプアに陥る」と全体化しているメディアが多い。
 僕も1年間今の会社で派遣社員だった。そして正社員に成り4ヶ月程経とうとしている。実際の所、手取りに関して言えば諸手当分が増えただけで、純労働に対しての給与は、派遣社員の時に比べれば落ちている(時給換算で)。反面福利厚生が充実し、例えば各種保険加入(会社払)や出産に伴う手当等が優遇され、また会社からの祝金等も充実している。責任と残業から逃れるか、待遇を求めるかで選択の自由はあるだろう。
 何故ここまで派遣叩きの言説が起こるのだろうか。「ニートフリーター」と括られ「働かない者は悪」と批判されてきたが、その延長としての批判になるのだろうか。しかし派遣社員は「働いている」にも関わらず批判されている。その最たる因子が「給料が安い=ワーキングプアニートフリーター」というイメージに他ならないわけだが、実際日雇い派遣とは違い、長期派遣社員の場合はそれに当てはまらない。現在長期(半年以上)派遣においては、社保、有給休暇などが完備されており、給与面でも正社員を上回るものがある。
 現状、正社員と派遣社員の差異として、給与面で賞与の有無がある。正社員の給与が賞与に依存したものであれば、まだ年収で比較した際に派遣社員との差別化が行えるが、賞与を多く見込めない正社員待遇であれば、実際の年収は派遣社員の方が上回る場合がある。これは特に中小企業に多い現象だろう。
 そういった事実を蔑ろにしメディアは「派遣社員は底辺」とイメージ付けを行おうとしている。例えば正社員と派遣社員の職場差別を描いた「ハケンの品格」をドラマ放映しようとも、大衆紙は「あんなハケンはいない」と批判し、強引にでも派遣社員ワーキングプアに結び付けようとする。現実的にあのドラマで描かれた様な派遣社員が、今の職場にいる。時給3,000円とまではいかなくても「薬剤師並の時給」で、上司だろうが何だろうが仕事ができなければ強く注意する。基本的に契約外の仕事もしないし、業務が終了すれば直ぐに帰る。もちろん正社員以上に仕事ができるので、業務を率先してこなし、場を引っ張ることもある。業務外のスキルも高そうで、他でも同様に仕事ができそうではある。と、それだけの表現では人柄がわかり難いが、職場の人間からは信頼され、ある意味業務においては依存されている存在である。
 違う側面から派遣社員を考えてみると、例えば現在派遣雇用をしていない企業は少数であろう。現状の正規雇用増加に至るまでに、企業再編、リストラを行い、正規雇用を縮小し、日常業務の大半を派遣社員に任せ、彼らを主戦力として扱ってきた企業が多いはずである。業務面においてそんな彼らを差別化し、正社員を上位と捉えている企業があるとすれば、それはやはり時代錯誤としか言い様がない。業務において、本来的であれば雇用契約内容を遵守していれば、雇用形態に縛られる必要性はない。要するに現状、中小企業においては派遣社員を主戦力として扱っている場合があり、そんな彼らを蔑ろにしていては、日々の業務が滞るどころか、会社経営も危ういところもあるのだ。最近景気回復に伴い、パート・アルバイト、派遣社員などを1,000名単位で正規雇用する企業が出て来たのが良い例だろう。
 またグッドウィルフルキャストなどの派遣業界を批判するための婉曲報道というものも考えられる。一時のライブドア村上ファンド叩きと同様の印象を受けることがある。「拝金主義」的イメージを全面に押し出して、比較対象としてワーキングプアを提出する。着地点として「金を儲け過ぎるのも、金がないのも悪い。格差ダメ絶対」と落着く。もちろんその際に報道されるワーキングプアの対象は、あくまでもグッドウィルフルキャストの「日雇い派遣」なのだが、そこから派遣社員の全体化へと繋げていく手法が目に付く。
 このまま正社員雇用が加速すれば、正社員雇用以外=ワーキングプアという強引な図式がイメージ付けされ、平行してバブル礼讃、格差社会敬遠というチグハグな報道がなされる可能性も高い。ワーキングプアとは、日雇い派遣だからプアになるわけでは無く、環境、スキルなど諸々の事情によって行きついた結果でしかなく、日雇い派遣だから、というわけではないのだ。もちろんグッドウィルフルキャストがあそこまで日雇い求人を独占しているのには、労働力を安価に大量にという、人権を軽視した労働力の低価格化戦略が背景にあり、結果的に派遣登録をしない限りはそれらの仕事につけないという事態にまで発展させてしまった日雇い派遣業界には、労働倫理上の問題が残るだろう。
 派遣業界が沈静化し、正規雇用が進んでもワーキングプアの根本的解決にはならない。ましてや正規雇用が推進され、派遣業界が落ち込んでいる現実にもっと目を向けるべきだ。長期派遣職種が縮小され、この先日雇い派遣職種が増加すれば、ワーキングプアの分母が増えることと同義でもある。また終身雇用が約束されない正規雇用においても、一寸先は闇という事実も認知されるべきだろう。