apoPTOSIS:mod.HB

最近は写真日記。

どうにかしたいもの

 日常生活において、特に生理現象において、面倒臭く成ることは山ほどある。例えば爪切りだったり、髭剃りだったり、散髪だったり。それが生きているという証拠にもなるのだろう。また寝ている時に催しても、やはりトイレまで行くのは面倒臭いものだ。食事に関しても、面倒臭くなることがある。
 そして僕が何より面倒臭いと感じるのが、耳掃除である。耳かきで掻いても、綿棒でほじくっても、痒いと思われる場所には辿りつけない。「もうちょっと奥の方だ!」と冒険すると、痒みよりも痛さに支配されることになる。僕の耳垢はドライである。なので、通常は耳かきを用い、シャワー後などは綿棒を用いる。痒い時はもちろん、耳かきなのだが、竹製では無く、金属製のものを使っている。僕の場合、竹製だと、掻いている間に皮膚が痛くなってしまうのだが、金属製の場合は痛くならない。
 耳かきでも綿棒でも回避できない痒みの場合、僕はティッシュペーパーでこよりを作り、それで誤魔化す。耳垢を吸うタイプのものや、掻き出しやすい様に細工された綿棒など、色々と試したが、「これだ!」というものに出会ったことがない。そういう意味では、こよりが1番気持ち良いかもしれない。
 あれは忘れもしない、インドに行った時のことである。カルカッタの街を歩いて居る時に気がついたのだが、路上で耳掃除をしているのだ。あまりにも気持ち良さそうなので、電車の待ち時間にしてもらうことになった。交渉の結果、10ルピーでやってもらうことに。チャイが1ルピーで飲めるのだから結構な値段ではあったが、やはり耳の中をほじくられるとなると、安い値段でいい加減にやってもらうわけにはいかない。保険の意味も込めて10ルピーと提示した。
 「ノープロブレム」と言われ、言われた通り頭を傾ける。すると変な液体を耳の中に入れられた。見守っている友人達は「どうよ?」と笑っているが、当の本人には何を入れられているのかわからない。耳から溢れる程に液体を入れられ、耳穴周辺を念入りにマッサージ。特に耳たぶ裏をずっと揉んでいた。次に細長い金属の棒を取り出し、そこに綿を絡ませ、細い綿棒を自作する。
 「なんだ、掻き出すのでは無くて、結局綿棒なんだ」と思ったが、実際はそうではなかった。その棒を入れると、どんどん中へと入って行くのだ。通常では絶対に入らない様な場所に入っている感じだった。耳の奥では液体が「クチャクチャ」と成り、まるで痛みは感じない。見守っている友人達は既に沈黙である。少しして棒を引き抜くと、まるでヘドロの様なものが自作綿棒に絡まって出てきた。
 これには友人達だけでなく、集まってきていたインド人もびっくりである。耳掃除をしている本人も「ナンダコレ!」と言いたそうな表情だった。後々入れた液体の色を見たのだが、赤色で、綿は綺麗な白色だった。どう考えてもヘドロ色に成りそうにも無い。綿を交換し、耳の中の液体が無くなるまで自作綿棒を入れるのだが、流石に最後の方は色が変わらなくなった。反対側の耳も同様に掃除してもらい、約束の10ルピーを払い電車に乗ったことを憶えている。
 後々友人に聞くと、「あれは外から入ったものじゃなくて、お前の耳垢だ」と驚いていたが、しかしそうだとすると、それまで僕が耳掃除だと思ってやっていたものは一体何だったのだろうか。ヘドロ色になるまで耳垢が溜まっていたとなると、まるで効果が無かったということになる。インド旅行が終わってから、インド人がそうしていた様に自作綿棒を作り、耳掃除を試みたが、ただただ痛くなるだけで、まるで気持ち良くない。
 あれ以来結局いつも通りの耳掃除をしているのだが、近くに耳掃除のプロが居たらお願いしたいものである。今度またインドに行った際には、必ず耳かきをしてもらい、その一部始終をビデオに収めたいものだ。実際、弟子入りしても良いくらいなのである。