apoPTOSIS:mod.HB

最近は写真日記。

ホストになってみよう:その15

 「……。えっと、僕…ですか?」と戸惑いながら、フロアチーフを見ると、彼は一瞬キョトンとしたものの、「はいはい、サクラくん、座らせてもらいなさい。ほらほら」と席を譲ってくれた。主任の方を見ると、意味はわからないが、1人で頷いていた。「あ、はい、失礼します。あ、でも、オーダーが先ですよね。えっと」キョドっていると、「それは僕がやるから、ほら座って」とフロアチーフがメニューを取り上げた。
 「サクラくんって言うんだ。はじめまして」と、僕を指差したお姉さんが微笑んだ。「は、はじめまして…」と少し緊張したが、「エリさーん、彼緊張しちゃってるじゃないですかぁ」と小柄な女性がフォローしてくれる。「えっと、私はマミで、このお姉さんがエリさん。よろしくね」と小柄な女性、マミさんが自己紹介をしてくれた。「よろしくお願いします…」と向かいに座っていた主任を見ると、相変わらず頷いていたが、「サクラくん、格好良いでしょう?俺がスカウトしたんだから」と口を開いた。
 「うっそー、どこでスカウトされたの?駅前?」とマミさんは話題に食いついていたが、エリさんは静かに話しを聞いていた。「それがさぁ、ゲーセンなんだよ。こいつゲーム上手くてさ。なっかなか終わんねぇの。30分くらい待ったかな。な?」と話題を振られ、「ああ、そうでしたね。競馬のゲームで、馬に跨がってましたね。振り返ると主任が居て」とスカウト話しをしていると、ドリンクが運ばれて来た。
 場が少し和んだので、ドリンクを作りながら、自分からも話題を振ろうと「お2人はお仕事は、何をしてらっしゃるんですか?」とボトルを傾けていると、「ばっかー、お前」と主任からつっこまれた。危うくドリンクをこぼしそうになる。顔を上げると、エリさんとマミさんは少し困惑している様子だった。「すいませんね、こいつ、ほらまだ素人ですから」と主任が2人に謝りだした。「あはは、いいの、いいの。気にしないで。私たちはソープで働いてるの」とマミさんは笑ったが、「ちょっとぉ…」とエリさんは少し困っている。「いいじゃないですかぁ。どうせバレることだし。ねぇ?」とマミさんは相変わらずのノリで主任に絡んだが、「サクラくん、仕事とかお客さんに聞くのはタブーだから。答えたくない人もいるからさ。後はやっぱり年齢とかね。女性に対してのマナーとして」とマミさんに対応しながら、指導してくれる。
 「あ、すみません。本当に」と頭を下げ、次の話題を考えるが、出てきた言葉が、「えっと、今日は…仕事帰りで、そのまま?」とどつぼにはまる。正にテンパっていた。「うん、そうそう。今日がオープンって言うからさ」とマミさんはまるで気にせず話しに乗って来てくれたが、僕を座らせてくれたエリさんは特に話題に入って来ようとはしなかった。
 すると「エリちゃんは、どうしてサクラくん気に入ったの?」と主任が助け船を出してくれた。エリさんは煙草を出しながら「ああ、あのね」と話し始めた。僕はライターを取り出し、彼女の話しを聞きながら、煙草に火をつけた。火をつけた時、彼女と目が合ったが、その瞳は何か懐かしいものを見るようなものだった。「サクラくん」と煙草の煙を一瞬吐いて、「私の前の旦那に似てるのよ」と彼女は僕の目を見て笑った。