記憶の技法:透明人間の失踪:吉野朔実
記憶の技法は2002年11月20日発行、1巻完結のストーリー。透明人間の失踪は2003年9月20日発行で、短編集となっている。僕は勘違いして透明人間の失踪から読み始めてしまったが、ある意味それで良かったのかもしれない。
記憶の技法では、1人の少女が無意識の内に隠ぺいされた記憶を取り戻していく。その手助けをした少年が、透明人間の失踪でも登場するのだ。透明人間の失踪だけを読んだ時点では「微妙だ」という思いだったが、記憶の技法を読んで初めて「そういうことか」と合点がいった。
面白かったのは透明人間の失踪の恋愛家族。恋愛的瞬間にも出てきたテーマだが、小さな不幸はより大きな不幸によって癒されるというような話し。それを重い話しにしないで、サラサラと描けてしまうのは流石に吉野朔実か。できればこういう話しに絞って書いて欲しいけれど、既に吉野朔実自信が飽きているのかもしれない。
いたいけな瞳で様々な短編を試した吉野朔実だから、そういう作品作りもありなのだろう。ただどうしてもいたいけな瞳に較べてアイデアが無い。恋愛的瞬間が吉野朔実のパーフェクトな作品なのかもしれないが、IKKI COMIXでのperiodを期待したい。
「わたしがここにきたのはなぜか。なんのために、自分のことが知りたかったのかがわかったの。わたしは帰るためにきたの、家に。お父さんとお母さんのところに帰るために。自分を産んだ人達のことを調べにきたの。だから、おみやげは買いにいかなくちゃいけない」
「この人がどうしてわたしに、ついてきてくれたのかわかった。この人もまた、ずっと孤児だったのだ。そして今もまだ帰る場所の記憶がないのだ」
「助けられないよ。神様だって助けられないよ。どこの国でも神様ってヤツは、ただ見てるだけなんだから」
「見てるだけ!?そうなの!?」
「なんにもしないよ。いるだけなんだから」
「ほんと?」
「死ぬときゃ死ぬんだ、ほっときな」
吉野朔実「透明人間の失踪」